大人の童話version1
ある次元、ある時間の物語
彼女は、頑なだった。
同僚の女A(以下女A)「ねえ、ねえ、昨日のドラマ見た?」
同僚の女B(以下女B)あのタクマの出ている[小さなラブストリー]でしょう?」
女A「うん、うん、ユウコちゃんもかわいいよね?」
女B「最終回はどうなっちゃうのかなあ?やっぱり死んじゃうのかなあ?」
女A「いきなり、ニューヨークに行っちゃたりして・・・」
女B「なんでニューヨークに行くのよ?」
女A「だってドラマのラブストーリーって最後は、主人公が死ぬか、外国に行くかじゃない?」
女B「うん、う-ん、でもニューヨークはナンカありきたりだなあ・・・」
少し不満そうな顔をして、
女A「じゃパリにする?」
女B「フランス語分かんないもん!」
女A「あんたが行くんじゃないのよ!」
女B「いいじゃない!ちょっとはヒロイン気分で!」
頬を膨らませる。
女A「じゃ、どこにすんのよ?」
女B「うーんとね・・・やっぱり行ったことのないような所がいいよね?」
女A「パプアニューギニアとか!」
女B「なんでパプアニューギニアなのよ!それに都市(まち)じゃなく、国だし!」
女A「行ったこことのないような所っていったじゃないの。多分ラブストーリ上最終回にパプアニューギニアには誰も行っていないじゃない?」
女B「それはそうだけど・・・」
そんな会話に耳をかさないかのように彼女はパソコンをカタカタと打っていた。
女A「ねえ?洋子は何処にする?」
洋子「うん、どこでもいいよ。それにそのドラマ見てないし、ゴメンだけど、今日中に仕上げたい仕事があるから、これ打ち終わってからにしてくんない。」
女A「え?見ていないのあのドラマ?平均視聴率30%以上あるんだよ。」
洋子「うん、あの時間帯はお風呂に入っている時間だから・・・」
女B「洋子は温泉好きで、長風呂だからね。」
洋子「うん、それに今日はちょっと残業したくないし・・・」
女A「だから、昼休みの時間も仕事しているんだ。」
女B「邪魔したくないから、ランチ先にいくね。」
同僚ふたりはランチに出かけて行った。
洋子は、二人が消えると、言った。
「ちょっと違うんだよな今日は!」
彼女の目が輝いた。
夕方、彼女は定刻通り仕事を済ませ、電車に乗っていた。
彼女の気分は最高だった。電車の中で、目を閉じ空想にふけていた。
以下空想
マンションの部屋のドアを開ける。
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玄関でハイヒールを脱ぐ。
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部屋に入る。
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バッグを部屋に置く。
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スーツを脱ぎ、キチンとたたむ。
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そのまま風呂場に行き、下着を脱ぎ風呂にゆっくりと入る。
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風呂から出る。
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体をバスタオルで拭く。
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バスローブを着る。
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髪をドライで乾かす。
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体重計にのる。
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朝方よりちょっと減っているので喜ぶ。
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エアコンの調整をリモコンでする。
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昨日から用意しておいた料理を冷蔵庫から出す。
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電子レンジでチンする。
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これも前々から用意しておいた特注のワインを出しテーブルに温まった料理と並べる。
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ワインのコルクをポンと抜き、ワイングラスに注ぐ。
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トクトクと音がする。
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注がれたワインの香りを目を閉じて嗅ぐ。
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「さすが、10万円の香り!この日のためにボーナスで買ったことだけあるわ」とつぶやく。
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ひと口、口に含み、のどに流し込む。
↓
「口当たりも最高!」とつぶやく。
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テーブルの上にあるテレビのリモコンを手に取る。
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リモコンでテレビの電源を入れる。
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テレビの画面がつき、リモコンでビデオ画面にあわせる。
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テレビのリモコンを置き、今度は、別のリモコンを手に取る。
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そのリモコンで、DVDレコーダーの電源をつける。
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リモコンでDVDレコーダーのメニュー画面を出す。
↓
選択画面の項目から[小さなラブストリー]を選択する。
↓
[小さなラブストリー]を再生する。
ちょうど、その時電車が駅に止まった。
彼女は目を開いた。
彼女「よし、シミュレーションは完璧!」
彼女は電車を降りて、行った。
それから、彼女のシミュレーションでやったことを一つ一つ順調にこなしていった。
選択画面の項目から[小さなラブストリー]を選択する場面まで来た。
彼女「この日のために[小さなラブストリー]の話には耳をかさず、DVDレコーダーを買うために月々の給料から積み立て預金をし、ボーナスで10万円もするワインを買い、残業がないように昼休みまで仕事をしたんだよね。タクマ!ユウコちゃん!全11話まとめて心置きなく見させてもらいます!どうせ明日明後日は土日で休みだもん!」
彼女は、選択画面の項目から[小さなラブストリー]を選択し、右手でリモコンの再生ボタンを押し、左手でこぶしをつくり、天に突き上げていった。
「GO! Let's PLAY!」
DVDレコーダーが再生を始めた。彼女はワインを口に運び、グイっと飲んで、目を輝かせながら、テレビ画面を見つめた。
画面に以下の文字が出てきた。
「前回までのあらすじは・・・」
彼女「前回までのあらすじ?」
「前回までのあらすじは、不治の病に思えたユウコの病気が一億円でアメリカのニューヨーク病院で治療出来る可能性を知ったタクマは、ユウコを先にニューヨークに送った後、銀行にある山本組の隠し口座から金を盗み出す。金を病院に送金出来た直後、山本組と関係のある今田頭取は、自らの使い込み100億円の全ての罪をタクマのせいに画策し、タクマは警察と山本組に追われることになる。ユウコの親友京子とタクマの機転により巧みに警察と山本組から逃げ切ったかのように思われた。しかし、実は今田頭取の愛人であった京子の裏切りで、タクマは凶弾に倒れてしまう。その時、ユウコの生死を分ける手術が始まるのであった・・・」
「?」
彼女「第一話のはずなのに、どうしてこんなに長い前回までのあらすじがあるの?まさか!」
彼女は、口に鳥のフライをくわえたまま、バスローブ姿で立ち上がり、押入れをあけ、何かを探し始めた。
彼女「ない!ない!ない!DVDレコーダーの取扱説明書がない!」
さんざん、部屋中をひっくりかえしながら探しまくった。
そしてようやく、見つかった。
彼女「あった!取扱説明書!」
彼女は取扱説明書を鬼の形相でめくり始めた。
彼女「えーと、えーと、え何、何?」
「オートリニューアル?更新録画を自動更新する?毎週の予約録画で、前回録画した番組を、上書きします。(上書き後は前回の録画は消去されます。)って?前回の録画は消去されますって、じゃー、一話から十話までは、消去されてしまったの?」
彼女は取扱説明書を握り締めたまま、その場にへたりこんだ。
彼女は、呆然とテレビ画面を見つめた。
テレビ画面
「来週からこの時間は、携帯小説で大人気の[アリとキリギリス]大人の童話をお送りします。」
彼女「[アリとキリギリス]?私は、アリのように・・・冬の日のために・・・、この日のために、コツコツと準備してきたのに・・・見たいのを必死で堪えてきたのに・・・結局は、キリギリスのようにやりたい時にやって、見たい時に見た方がよかったじゃない!童話のうそつき!」
彼女は、子供の時に呼んでもらった童話の教訓が現実に必ずしも当てはまらないことを知ったのであるが・・・
ドラマ[小さなラブストリー]をまとめて見ることと、この経験[童話の教訓が現実に必ずしも当てはまらないこと]を知ることのどちらが、自分に取って重要な経験になるのか彼女は気づいていないようだ。
彼女「よし、再放送が先か、DVDが出るのが先か分からないが、今度は絶対に我慢しないぞ!」