検閲

ある次元ある時間の話

いつの間にかどこかの国と戦争になった。

戦時体制となり、様々なものに検閲が入ることになった。

私は幸か不幸か、その検閲の基準のマニュアル作りの責任者となった。

家に帰る。

玄関にあるハイヒールがだらしなく横倒しである。

そのヒールをきちんと並べる男。部屋に入る。

女性の服が脱ぎっぱなし、箪笥の引き出しは開けっ放しである。

男は、歩きながら、服や箪笥の引き出しをキチンと元に戻していく。

テーブルに一枚のメモがある。

メモの内容↓

友達と前にいっていたツアーに一ヶ月程いくから。


「一ヶ月?戦時中だというのに・・・」

雷が「ピカリ!」と光り、「ドン!ザー」と雨が降り出す。

外のベランダには洗濯物が干しっぱなしである。

男は、慌ててびしょ濡れになりながら洗濯物を部屋の中に入れる。

濡れた姿で、メモを手に取って裏返す。

出前の電話番号は××××ー××××


「今の時間は、どこも終わっているよ・・・」

次の日、男の仕事場、多くのDVDが山積みになっている。

男は、テレビ画面を見ながらしきりにメモを取っている。

夜になるとメモを見ながら、ノートPCのキーボードを一生懸命に叩いている。

これが、数日間朝から晩まで続いていく。

何日目かの朝、プリンタの音が大量の書類を印刷している。

男は、窓の外の朝日を見ながら、コーヒーを飲んでいる。

プリンタの音が止む。


「やっと出来たか・・・」

大臣室 男が、大量の書類が載っている台車を押しながら、大臣室に入る。


「大臣、失礼します。」


大臣
「おう、君か。」


「検閲の基準マニュアルが完成しました。」

大臣
「やけには早かったな。」


「泊り込んで徹夜しましたので・・・」

大臣
「そんなことして、家庭の方は大丈夫なのかね?」


「文句は今は、言われません。」

大臣
「まあ、今は非常時だからね。ハハハー」


「......」


「それより早速、書類に目を通してください。」

大臣は台車に載った多量の書類の山を見て顔を顰める。

大臣
「これ、全部かね?」


「いえ、これは、ただの要約で、具体的な細かな品目は、このDVDに入っています

男はDVDを差し出す。

大臣はDVDをよく見もせずにを手に取り、直ぐに台車の書類の山の上に置く。

大臣
「君のことは信頼しているから、直ぐに法制局の連中に回し法案化してくれたまへ。」


「はい、分かりました。で、これは、どうしますか?」

大臣
「勿論、法制局に持っていってくれ。」


「では、了承したという、ご署名をココと、ココにお願いします。」

男は手際よく、書類を出して、署名欄を指差す。

大臣はサインと印鑑を押しながら言う。

大臣
「君と仕事してから、効率的でいいよ。」


「これも、仕事ですから・・・」

数日後、夜、男の部屋。玄関から、鍵を入れて、ドアを開ける音が聞こえる。

妻が、両手に大きな荷物を持ちながら、ぶつぶつ言いながら入って来る。


「ねえ?知っているあなた?」


「うん、なんだい?随分と予定より早かったじゃないか?」


「途中で、中止になったのよ!今度、検閲基準が出来て、放映出来ないドラマや映画が出来たのよ!」


「どんな内容のものだい?」


「それがね、急に交通事故で記憶喪失になったり、子供の頃の回想シーンをしつこく流したり、貧富の差があり過ぎる男女を出したり、男の癖に泣いてばかりいるのもだめだって!」


「今は、戦時中だから、責任転嫁や過去の良き時代に憧れたり、社会政策の批判を煽ったり、直ぐに泣くような弱い男はだめだからじゃないのかな?」


「あら?よく知っているわね?そういう理由だったわ。」

男は少し慌てて、


「多分、考えていることが、一緒だからじゃないかな?そんな僕が考えられるような特徴があるから、検閲にあうんだよ!」


「でもね。でもね。蝿が登場人物に止まっているのに、取り直しをせずに放送したり、間違った英語、ネイティブが使わないようなファイティングというような言葉をするようなものもだめだって!これは、何でよ?」

男は言葉に詰まって


「そっそそれは・・・それも多分、戦時中で、心の余裕がないせいじゃないのかなあ?」


「そうかなあ?やっぱり戦時中のせいよね?」

妻は、そういいながら、服を脱ぎ散らしながら、風呂場に入って行った。

男は、その服をキチンとたたんでいく。

風呂場から、シャワーの音と鼻歌が聞こえる。

男はベランダに出ながら、その鼻歌を聴きながら呟いた。


「僕の最大の失敗は・・・、妻に嫌がらせをすることが一番重要なことではなく、妻がこの家に帰ってくることが、僕に取っての一番の嫌がらせであることに気づかなかったことである・・・」と
END